「運転のプロ」といわれることの多いタクシー運転手ですが、運転技術以上に必要とされるのが対人関係スキルです。
狭い車内でお客様と二人きりになるのですから、タクシードライバーをめざす人はまず「自身の人付き合いを振り返ってみる」べきなのです。
運転が得意、または運転が好き、というのは実はあまり重要ではありません。単独または友人知人を乗せて走るのと職業としてお客様を乗せるのでは、要求されるドライビング技術が根本的に異なるからです。
タクシー乗務にふさわしいと思われる適正判断の5つのポイントを以下に挙げます。
タクシー運転手の仕事に向いている人
- 長時間の運転が苦にならない
- 忍耐力がある
- 気配りができる
- 聴き上手
- 休日はドライブなどでよく外出する
1.長時間の運転が苦にならない
これが最も重要なポイントになります。業務の大半は運転業務になるので、長い時間の運転が肉体的、精神的にストレスと感じるような人は運転手には向いていません。
運転疲れがニアミスや事故を引き起こすのはいうまでもありませんが、これはドライビングのみの問題ではなく、運転手自身のストレスがときにお客様への対応に反映されてしまう場合があるからです。
忍耐強さとも直結しますが、サービスを提供する側は自分の苦労を表に出してはいけません。実車乗務をそつなくこなすためにも、極力ストレスの少ない状態で運転しつづけられる人が必要とされるのです。
タクシー乗り場などで車外に出て運転手同士が会話する場面をよくみかけます。あれは単なる休憩や気晴らし以外にも、近年問題となっている「エコノミークラス症候群」の予防策として必要なことなのです。
長時間座ったままの状態で下肢がうっ血することに起因する症状で、死に至ることもある深刻な病気として知らます。
そのため長いあいだ車のシートに座って体調の異変を感じた経験のある人は、お客様の命にも関わるタクシー乗務を選択すべきではないでしょう。
2.忍耐力がある
タクシー乗務ではお客様を求めて長時間待機したり、街中をひたすら流したりする時間がほとんどです。そのため我慢強さに欠けるという人には、当然ながら向きません。
お客様がいつ現れるかは天候や時間帯、イベント開催の有無等でまちまちですから、時には1時間近い待機も視野にいれておかなければなりません。また、酔客や我の強いお客様の場合、暴言を吐かれたり理不尽な言動を受けたりすることもあります。
もちろん大切なお客様ですから、すぐにカッとなるようではいけません。あくまで冷静な受け応えを心がけ、お客様を不用意に怒らせないことが肝要です。
忍耐力は、タクシー勤務を円満に行うための最重要スキルといえるでしょう。
3.気配りができる
車内の寒暖や乗り物酔いの有無など、お客様の状況に気をつけておくことも大切な仕事です。
わき見運転には充分注意し、ミラーに映る様子や言葉の端々からそのときお客様は何を気にされているのか、何か改善を求められてはいないか、推し量るための技量が要求されます。
映画やドラマの探偵ほどではないにせよ、普段から相手の心理や状態を推察するクセをつけておくのも、タクシードライバーになるためには有効な訓練でしょう。
ただし、「世話好きの自覚がある人」はちょっと注意が必要です。ドライバーがお客様にする気配りは、あくまでも煩わしくない程度にとどめておかねばならないからです。
自他共に認めるような世話好きには、「いい人だけど有難迷惑」という評価もついて回るのがよくあるパターン。プロとして相手をするわけですから、うっとうしいと思われるような過剰接待は禁物なのです。
4.聴き上手
お客様の中には、お話し好きでほとんど喋りっぱなしという人もいます。
そんなとき、わざわざ話の腰を折ってまで会話のキャッチボールに加わろうとするのは考えものです。ほどよく相槌をうちながらお客様の話に耳をかたむけ、頃合いをみてひと言ふた言、つなぎの言葉を返すくらいがベターでしょう。
17時以降のお客様は仕事帰りでお疲れの人も多いですから、とくにこうした時間帯にはあまり話を振ったりせず安全運転に徹するつもりの乗務が基本になります。
退勤客にも関連する注意点として、職場の愚痴がはじまった場合に同僚や上司、取引先などの悪口が語られても、「そういう人っていますよねえ」など、お客様の人間関係にネガティブ評価を与えるような返答は厳禁です。
口にしたのはお客様でも、「あそこの会社の運転手が同調していた」などということになったら会社の評判に傷がつくのは明白なのですから。「それは大変でしたねえ」など、逃げ道を残したあいまいな応答が鉄則となります。
5.休日はドライブなどでよく外出する
タクシーの運転手ともなれば、その土地の道をよく知っていなければなりません。
交通量の多い少ない、混雑しやすい時間帯、地元の人でもなじみのうすい地名など、勤務地の地理や交通状況などに精通している必要が出てきます。
普段仕事で運転しているのだからプライベートでは走りたくない、と考える人もいるでしょう。ですが、お客様の都合で走るのと自分の都合で走るのとではわけが違います。
自分の車ともなればとくに維持費を安く抑えたいですから、燃料が少なく済むようシビアなルート設定になりやすいからです。
また路面状況は、車体のメンテナンスや乗車中の快適性に大きく影響をおよぼします。
道路にまつわるこうした事柄を「ひとごとではなく自分のこと」として実感できれば、それはお客様にたいする思いやりとして適切な運転判断に活かされますし、結果ドライバー自身や会社の評価にはねかえってくるのはいうまでもありません。
また、いつもは通らない道をあえて選択してみたり、入ったことのないルートを開拓してみたりするなど、リスクの大きい乗務中にはできません。
こうした予習や復習をかねたドライビングを趣味も兼ねておこなえる人にとっては、タクシー運転の仕事はまさに天職、といっても過言ではないでしょう。
まとめ
これら5つのチェックポイントで複数の項目に該当する人は、タクシーの運転手に向いていると言えるでしょう。
また、該当数が少なかったりひとつも当てはまらなかったという人も、努力しだいで道がひらける可能性はあります。
運転技術をむやみにひけらかしたりせず、お客様と会社の車を大切にあつかう慎重な姿勢こそが、タクシー運転手に求められる重要な心構えなのです。